月別アーカイブ: 10月 2011

悩むってことは向上する余地があるってことなんだから

読了:ルナティック ガーデン/太田忠司

月への往還は容易になっている、しかしそこへの定住はまだまだ珍しい、少し未来を舞台にしたSFミステリ。

これは感想を書くのが難しい……ミステリは往々にして最後の種明かしが物語の核心となっていて、そこが気に入ったとかどうだったとかいうのが、強く抱く感想になってしまうから、いつも難しいのだけれど。

ネタバレにならない範囲で言及すると、あとがきにある著者の言葉を見てまず思いだしたのが、自分自身がネットで知恵を借りながら「SF」を書こうとしたときの経験だった。科学考証的には、さほど破綻なくまとまった小説は書くことができて、それはひとえに「知恵貸し」に参加してくださった皆さんのおかげだったのだが、ではその小説はSFかというと……なんか、SFって感じしないな〜、と、自分では思ったのだった。

それに比べると、この作品はきちんと「SF」であると思う。つまり、ネタバレであるから言及しづらいなと思う、その話の核の部分が、そのジャンルでなければ書けないテーマと繋がっている、ということなのだ。……この程度なら大丈夫かな。

月面での本格的な庭作りについてのディテールがおもしろかったので、その方向で詰めていく作品もまた読んでみたい。

個人的には、楊さんが好み……誰も欲しがらない情報で、すみません。

「庭作りでは一生、その立ち位置に悩むことになるわ。自分がやっていることは正しいのかどうか、造り上げた庭は本当に正しいものなのかどうか、ずっと悩みながら仕事をすることになるでしょう。それでいいのよ。悩むってことは向上する余地があるってことなんだから」
そう言って微笑んだときのアデルの表情は、とても柔らかだった。エチカは訊いた。
「あなたも、今でも悩んでるんですか」
「おかげさまでね。まだわたしも成長できそうよ」

(p.179-180)

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文字の体系の発生には絶対的な権力をもつ王が必要である

読了:白川静 漢字の世界観 (平凡社新書)/松岡正剛

「白川静の漢字学」を概観する一冊。

新書一冊に、これだけのものを詰め込んだところがすごい、と読み終えて思った。これだけ読めば、なんとなくでも漢字について「白川さんの著作をいかにも読んだことがある」風に語ることができるのではないか。それもひょっとすると、基礎教養のたりない状態でいきなり本物を読むよりも、ずっと要点を理解しやすく、ああそういうことかと把握できる感じ。

わたし自身、漠然と「う〜ん、なんかわかる気もするけどでも、なんでなんだ?」とぼんやり疑問に思っていた部分が、そうか、全体で見るとそういう流れからの発想なわけか、なるほど! と納得でき、興味をもってどんどん読むことができた。

白川静という巨人を分析し、タグをつけ、整理して並べ直して理解・把握がしやすいように編集をすると、こういう本になるのかなと。

これはすごい仕事をなさったものだ、というのもなんだか偉そうだけど、実際そう感じたので書いておこう。

すごい仕事をなさったものだ。

白川静ってよく名前を聞くけど、どこから手をつけていいかわからなくて……という人なら、この本から入るといいと思う。

それゆえ古代中国が文字をつくり出すには、絶対王の君臨と競争と交替という決定的な動向が必要でした。その絶対王こそが歴史の文節を大きく区画するべきなのです。それ意外には方法の出自はない。そこを白川さんは、「文字の体系の発生には絶対的な権力をもつ王が必要である」というふうに書いています。

(p.75)